聞きかじりめも

主にC++やメディア処理技術などに関して気付いたことを書いていきます.ここが俺のメモ帳だ!

ソリッドレイ研究所30周年記念イベント「EVA」感想

就活中でメンタルがヤバいのでずっと放置してたブログですが,落ち着いてきたのでちょっと近況報告.

6/4, 5に開催されたVRソリューションを扱う会社「ソリッドレイ研究所」の一大イベント「EVA~Exciting Visual Academy~」に参加してきました.このイベント,展示も講演も非常に面白くて,思わず詳細なレポートを書かざるを得ないくらい興奮してしまいました.というわけで,聞いた講演の部分の感想をまずはアップしたいと思います.特に講演2の方を詳細に.

著作権の関係上,講演の要約・写真等は掲載しませんのでご容赦を.

特別講演1「クロスモーダル表現とエンタテイメント」

講師:河合 隆史 氏(早稲田大学 基幹理工学部 表現工学科 教授)

講演内容:クロスモーダルとは、特定の感覚情報から他の感覚情報を補完して理解・体験する、人間の認知特性を活用したメディア表現の総称です。本講演では、クロスモーダル表現の応用事例やエンタテイメント分野における展望などを紹介していただきます。

 3D表現,人間心理,クロスモーダルの分野で有名な先生です.本講演では,3Dコンテンツを制作する際の定量的指針として,コンテンツを受け取る側の人間の心理特性(言語的反応,生理的変動)を考慮すべきという考えが流れていました.このように,人とテクノロジーを結び付けたり,人間の認知を分析したりする分野では心理物理学技法がよく使われています.これは一言でいえば「人間を,物理量を入力とし心理応答を出力とする一種のブラックボックスとみなし,それらの関係式から人間というシステムの性質を探る」やり方です.何しろ実験を工夫しさえすれば,解剖学的に調べずとも複雑かつ定量的な知見が得られるので,非常に強力なアプローチです.もちろん生理的な変動を測定しなければ片手落ちですが.

心理学を応用するのは何も精神科医やマジシャン,詐欺師ばかりではなく,人間工学的にも大変重要です.実際,実験的に河合先生の成果がコンテンツに応用されていたというのは凄く面白かったです.認知科学の応用で,人間の情動でさえも狙って定量的に設計できる可能性を見事に示してくれました.今後のコンテンツ制作やUI設計開発などの現場で,この手法はますます流行っていくことでしょう.

さてクロスモーダルについてですが,実は自分の研究室では散々聞いたような内容だったのですが知らない人にとってこんなに驚くべき話はないと思います.視覚が嗅覚や触覚の程度を変えるのみならず,実際に与えている感覚と異なった感覚になってしまい,更には与えていない刺激まで感じるようになる.このように錯覚現象を引き起こすため,うまく使えばVR・AR技術の発展にも大きく貢献します.様々な応用例を見せられて,この分野の研究が大きな可能性を持つことを改めて思い知りました.ただ錯覚を調べて喜んでるだけじゃないのね.研究がんばろっと.

特別講演2「VRでアイドルを誕生させる可能性」

講師:原田 勝弘 氏 / 玉置 絢 氏 (株式会社バンダイナムコエンターテインメント)
講演内容:鉄拳プロジェクトが独自に3年間VR技術を研究し、そのノウハウを結集したことで話題を呼んだ「サマーレッスン」を例に、VRにおけるキャラクター存在感など、ビジネスになりえるVRコンテンツの可能性をご講演していただきます。

実は今回の主目的はこの講演です.バンナムのVRアイドルというから「○イドルマ○ター」の話も出るかと思ったら殆ど触れられず,アイドルの話でもなかったから出鼻をくじかれましたが,良い意味で期待を裏切られました.VRで人間を表現する際に気を付けるべきことについて,「サマーレッスン」の開発が実に多くの示唆を与えており,大変興味深い内容でした.サマーレッスン自体はこの講演で初めて知りましたが,なるほどこりゃ物議を醸しだすわけだ.VRでもないムービートレーラーを見るだけで近すぎてドキドキしちゃうもんw

様々なエピソードがありましたが,「本当に生身の女の子を観察したことがあるのか!」という叱責が特に印象的で,没入間の高いHMDでのVRキャラクターだと可愛さの基準が現実と同じところに向かうということに驚きました.これは今後のインタラクティブなゲーム開発で非常に重要な意味を持っていると思います.なぜなら,開発者が「現実の女の子の可愛さ」を詳細に知っている必要があるということは,今までの観賞を主とするオタクコンテンツ的な文脈での「可愛さ」から脱却しなくてはならないからです.つまり,これまで以上に開発チームに違和感の元基準となる「現実的でまともな感性」が要求されることになり,要はリア充が開発チームにも求められることになるのです.ますます非リアのオタクの居場所が...そうするとインタラクティブなVRが提供するコンテンツは,アニメに代表される現在のオタクコンテンツとは別物になっていくのかもしれませんね.

リアルなゲーム特有のいわゆる「不気味の谷」というワードこそ使っていませんでしたが,今回の講演内容はまさにそれとの戦いだったように思います.全講演を通して不気味の谷の発生原因と乗り越え方をケーススタディでレクチャーしながら,その境目を分析し「VRキャラクターに主観を感じるかどうか」と一言で表現しきったことの意味は大きいと思います.今回の処方箋はあくまで一例ですが,現在の技術でもはや不気味の谷を越える技術的準備はできていたこと,我々が知るべきはむしろVRキャラクターの設計手順の方であったことを示したことで,不気味の谷を越えた先にある輝かしいVRコンテンツ群に繋がる橋が見えた気がしました.ただ2次元キャラはそのままレンダリングすると普段見るより異様に映ってしまうとのことで,更なるブレイクスルーが待たれるとのこと.でもまあプリ○ュアを始めとする各種女児アニメやラブラ○ブなどを擁するサンライズのトゥーンレンダリング技術をもってすれば数年と待たずに出来そうな気もするけど.ぜひ頑張ってください.

VRが自分の過去の体験と密接に絡み合うこと,化粧の例に代表されるようにVRキャラクターの可愛さの要因が現実のそれと同じであることを考慮すると,VRは決して虚構的な仮想体験のみにあらず,現実の一部なのだと強く思い,まさに本来の英語の意味でのVirtualが言葉として適切なのだと思い知りました.

バーチャル (virtual) とは,The American Heritage Dictionary によれば,「Existing in essence or effect though not in actual fact or form」と定義されている.つまり,「みかけや形は原物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」であり,これはその ままバーチャルリアリティの定義を与える.(日本VR学会HP)

人間は世界の物理的現象をそのまま認識することはできず,必ず五感を通してしか世界を認識できません.五感というフィルターを通した世界の知覚こそがその人にとっての「世界」であるならば,VR技術で得られる体験もまた立派な「世界の一部」です.であれば猶更,VRという文字通り世界を作り替える技術との適切な付き合い方を早急に考える必要がある気がしてきました.これは決して規制とかそういうのじゃなくて,正しく知識を蓄えて来るべき日に備えよう,ということです.あらゆるテクノロジーは包丁と同じで道具に過ぎません.進化したテクノロジーを正しく使えるように人も進化しなくてはならないのではないでしょうか

まとめ

分量から察せる通り,自分にとって2番目の講演のインパクトが大変なものでした.もちろん1番目も非常に興味深い内容だったんですけれど,新しい知見という点でどうしても後者に軍配が上がってしまいました.今でも興奮覚め止まないのでここに書いてない内容でも色々語りたいことがあるんですが,とりあえずこの辺でやめときます.